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・水平化効果の質問
「表5.1に掲載されているKaで、例えば、ヨウ化水素と硫酸は9桁違うが、水平化効果によって
 水中では本当に酸の強さの判別ができないのか」

 あくまで100%の完全解離条件のときには、水中で強酸の強さは判別できない。ただし、濃厚溶液では
 完全解離していないので、話は異なる。

 (参考)強酸(HX)の酸性度の文献
 Journal of Chemical Education, Vol. 78, 116 (2001).

 表の5.1の強酸の値はあまり意味がないことが分かるかと思います。

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・BX3のπ結合について
 
 Bの電子配置がsp2混成になって、ハロゲン3原子とπ結合を作ります。

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・練習問題5.26について

 考え方:(a)Cl-を引き抜くことを考えればよい→硬い酸
     (b)と(c)では同じような考え方で(c)が分かりやすいので、(c)について解説すると、
     Al3+の中心価数をさげる方向の溶媒を考えてやればよいので、電子供与性の高い溶媒を使用すればよい
     たとえば、DMSO、DMF、水など
     (d)はZnCl2のClよりも弱い塩基性溶媒があれば、Zn2+は弱い酸なのでより安定化する

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・磁性に関する質問
Q.教科書p.354ページの下から4行目〜p.355の上3行目まで。
 なぜ、低スピンd5錯体および高スピン3d6および3d7錯体では軌道角運動量からの寄与があるのか?


A.常磁性に対して軌道角運動量からの寄与があるためには、単純な回転操作により等しくなる縮退した軌道が存在する必要がある(図7・11は自由電子の場合を
考えており、この場合、d軌道はすべて縮退しており、dxyとdx2-y2は回転操作により等価になる。ただし、結晶場にある場合は授業でも説明した通り、d軌道は分裂
するので、dxyとdx2-y2は等価にならないことに注意!)。

 例えば、八面体場を考えたときには、d1、d2には軌道角運動量の寄与が存在する可能性がある。一方、d3は同じ向きのスピンが3つdxy、dyz、dzxに入っているので、
これらのエネルギー準位は等価であるが、同じ向きのスピンは一つの軌道に存在することができないので、軌道角運動量の寄与はない。
次にd4の高スピンであるが、t2gにはd3の場合と同様、軌道角運動量の寄与はない。また、egの軌道は回転操作によって重ならないので、egからの寄与はない。
 d4の低スピンでは、(t2g)4であるので、↓のスピンによる軌道角運動量の寄与が存在する。実際、Cr(II)の低スピン錯体の磁性はスピンだけの寄与よりも大きくなること
が知られている。

 同様に考えると、d5の高スピンでは軌道角運動量の寄与は存在しないが、低スピンでは存在する。
 d6、d7では高スピンで軌道角運動量の寄与が存在する。

 →これらの部分は教科書に記載している通りである。

d8、d9ではt2gは完全に埋まっており、egからの寄与は存在しないので軌道角運動量の寄与はない。

以上のことを考えると、軌道角運動量の寄与があるのは、d1、d2、d4(低スピン)、d5(低スピン)、d6(高スピン)、d7(高スピン)となる。
実験データを調べた限りでは、d1、d2はスピンのみの寄与がメインであった。この点については上記の内容では説明ができないが、後者の4つについては、
実験事実と良い一致を示しており、上述の内容で定性的に説明ができると考えられる。

厳密な理解は無機化学IIの範囲を大きく超えるため、以下の本を参考にされたい。

 ・キッテル固体物理学入門(丸善)
 ・錯体化学(裳華房)
 ・固体物理学各論(東海大学出版)
 ・固体の物理(丸善)


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・14.8(シュライバー下巻) 立体化学に関する質問
Q.教科書p.722のcis-, trans-[CoAX(en)2]2+ の加水分解でcisの場合は異性化をおこさず、transはcis錯体に異性化する傾向を示すとあるが、図14.7の説明では、
cisが異性化をおこさない理由にはなっていない。なぜ、cisの場合は異性化をおこさないのか?

A. 図14.7で八面体錯体から四方錐形錯体を経る場合は、立体化学が保持される。表14.10のA,Xの組み合わせでは、四方錐錯体を経て、置換反応が生じるようである。
しかし、必ずしもcisは100% 立体化学が保持されるわけではない。表14.10の加水分解は酸加水分解反応についてであり、この場合はcisの立体化学が保持されることが
多いようであるが、塩基加水分解だと、transへの異性化も起こることが知られている。

従って、この質問に対する答えとしては、「表14.10のcisの組み合わせでは、四方錐錯体を経ることによって、立体化学が保持されている。しかし、transへの
異性化も起こる場合もある」となる。

・ダグラス、マクダニエルの無機化学上巻の八面体錯体ー配位子置換反応の説明が分かり易いので、参考にされたい

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・問13.1(シュライバー下巻)

Q.(p)1(d)1の項について解答は1F, 3F(数字は上付)となっていますが、1P, 3P, 1D, 3D, 1F, 3Fではないでしょうか?

A.l=1 と l=2のベクトル合成になるので、Lの取る値は、1, 2, 3である。スピンは平行もしくは逆向きなので、

取りうる項は、ご質問のとおり
1P, 3P, 1D, 3D, 1F, 3F(数字は上付)

となると思います。下巻の終わりの解答は1F、3F(数字は上付)となっていますが、間違いではないでしょうか?
もし私が間違っていましたら、ご指摘いただければ幸甚です。

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